落語「動物園」の舞台を歩く
 

 

 五代目桂文枝の噺、「動物園」(どうぶつえん)によると。
 

 無精な男がいつもブラブラしている。働けと言うと、私の条件があります、それは「朝の10時頃に出社して、ブラブラしていて、昼には食事が出て、夕方4時には仕事が終わって、それで1万円貰えれば良いのです」。それを聞いていた先輩の竹内さんが、そんな条件では・・・、「それは働きたくない条件だろ。ん!ちょと待てよ。あるある。その条件なら行くか?」、「はい、行きます」。
 それは、移動動物園の虎が死んでしまった。それ以来人気が無くなって来場者が減ってしまった。そこで考えられたのが、虎の皮を被ってオリの中をうろついてくれる人を捜していたのだと言う。おまえと条件が合うだろ、動物園は開園10時半だから10時に行けば丁度良いし、一日ブラブラしてればいいし、昼には肉が貰えて、閉園が4時だから、それ以上居たら掃除の邪魔になる。日当もそれだけ出すと言っていた。

  紹介状を持って園長の長谷川さんの所にやってきた。
 いつからでも出来るというので、今日から始める事になった。虎の皮を被ってオリの中に入った。パンダではないので、あぐらをかいたらいけない。歩き方を教えて貰った。分からなかったら、ゴロッと寝そべっていたらいい。


 お客さんが入ってきた。子供を脅かそうとして「ウ〜〜、ワン」、「この虎、犬みたいに鳴いたよ」。美味しそうにパンを食べているので欲しそうにすると、子供がパンを投げてくれた。「この虎、手でちぎって食べてるよ」。


 場内アナウンスがあって「虎のオリで、ライオンと虎の死闘を繰り広げる一騎打ちが始まります」。と触れ回っている。
 「おい、そんな話聞いていないぞ。命まで売ってはいないんだから」。向こうから大きなライオンが目を光らせオリの中に入ってきた。「殺される!」、ガタガタ震えていると、自然と「南無阿弥陀仏」と口から出てしまった。「お母ちゃん。虎が震えているよ」、「当たり前よ。パンを食うような虎だもの」。さすがライオン、堂々として虎に近づき、耳元に口を当てて、
「心配するな。俺も1万円で雇われている」。

 



1.五代目桂文枝

 上方落語四天王の一人で、元上方落語協会長の桂文枝(かつら・ぶんし、本名・長谷川多持=はせがわ・たもつ)さん

 1930年、大阪市生まれ。。戦後、同市交通局に勤務し、1947年に同僚の桂米之助に紹介されて四代目文枝に入門、あやめを名乗った。54年に小文枝、92年に大名跡の五代目文枝を襲名。六代目笑福亭松鶴、三代目桂米朝、三代目桂春団治と共に「四天王」と呼ばれ、衰退していた上方落語の復興に尽力した。84年から94年まで上方落語協会会長を務めた。
 2005年3月12日死去、享年74歳。

 「はんなり」した芸風で、「船弁慶」「天神山」「たちきれ線香」など上方落語独特の三味線、笛、太鼓など”はめもの”が入る音曲噺(ばなし)や芝居噺を得意とした女性を描かせれば天下一品と評された。
 弟子に上方落語協会会長の桂三枝をはじめ、桂きん枝、桂文珍ら約40人がいる。71、90年に文化庁芸術祭優秀賞、73年に上方お笑い大賞、97年に紫綬褒章、2003年に旭日小綬章。著書に「あんけら荘夜話」がある。上方落語協会相談役。

 江戸落語だけを取り上げてきました私ですが、今回は大好きな話なので、私流に東京に舞台を移してその世界を歩きます。


2.動物園
多摩動物公園 http://www.tokyo-zoo.net/zoo/tama/index.html

 東京には大きな動物園が二ヶ所有ります。そのうちの一つで、あの吉原の灯が消えた昭和33年(1958)開園されました。上野動物園から大がかりな引越と動物の棲み分けが行われました。

 総面積52.3ヘクタールの園内には、武蔵野の豊かな自然が残っています。コナラやクヌギを主体とした雑木林が園内の6割を占め、昆虫や野鳥、アカネズミやノウサギなどの野生の哺乳類も住んでいます。動物園と言わず自然の動物公園です。

上野動物園http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/index.html

 明治15年(1882)、日本で初めての動物園として誕生しました。いらい、市民に親しまれる動物園として発展し、年間300万人以上の人が来園する日本を代表する動物園になっています。最近北海道の旭川動物園に抜かれて2位の座に甘んじています。都会に残された緑豊かな14ヘクタールの園内にはあの有名なジャイアントパンダやアジアゾウを筆頭に500種を越える動物が飼育展示されています。
 都心の駅からも近く、近くには国立博物館を始め、科学博物館、西洋美術館、都立美術館、図書館などもあり、上野公園と相マッチして、一日中勉学・憩いの場として楽しめるところです。

 

3.トラ【虎。Tiger】(タイ語系南方語起源か)
 ネコ科の哺乳類。アジア特産。頭胴長2m、尾長90cmに達する。雌は雄より小形。黄色の地に黒の横縞をもつ。シベリアからアジア東北部、東南アジア、インドなどの森林に生息。毛皮用に乱獲され、現在では各地で保護されている。多くは単独で森林・水辺にすみ、昼間は洞穴などに潜み、主に夕方から活動し、水泳も巧みで種々の獣や鳥を捕食。

 
アムールトラ
生息地
シベリア東部から中国東北部の森林
体の大きさ
体長2.5〜3m、体重180〜250kg
えさ
肉食性で、捕らえることができるものは何でも食べますが、シカやイノシシなどの大型有蹄類が多いようです。動物園では、馬肉と鶏頭をあたえています。
特徴
トラはライオンとならぶネコ科最大の動物で、寒帯から熱帯にかけての広い範囲にすんでいます。すんでいる地域によっていくつかの亜種に分けられ、アムールトラはその一つで、最も大型です。えものを捕らえるときは、しげみに隠れてえものに近づき、急に飛び出し、前あしの鋭いかぎ爪の一撃でたおします。成功率は低く、20回に1回ともいわれています。
スマトラトラ
生息地
インドネシアのスマトラ島
体の大きさ
体長1.4〜1.6m、体重はオスで100〜150kg
えさ
肉食性で、シカやイノシシなどを食べます。動物園では、馬肉、鶏頭、ウサギなどをあたえています。
特徴
トラはインド、ネパールから中国東北部、アムールにかけて分布しています。スマトラトラはトラの亜種の一つで、現在生存しているトラの中では最も小型です。しまは肩から後ろが2本ずつのたばになっていて、もようがはっきりしているのが特徴です。すみかの森林が開発されたり、 漢方薬や毛皮をとるために人間に乱獲されたりして数がたいへん少なくなったため、国際的に保護されています。

 この項、東京都動物園協会ホームページより

 

4.ライオン 【Lion】
 ネコ科の哺乳類。体長約1.8m。ふつう茶褐色で毛は短い。尾の端に黒い毛の総(ふさ)がある。頭が大きく、成長した雄にはたてがみがあるが、雌はたてがみが無く体もやや小さい。百獣の王といわれる。草原に雌を中心とする家族群で生活、大形動物を捕食。アフリカからインドに広く分布していたが、南アフリカの一部・モロッコなど絶滅した地域が多い。獅子 (しし)。

ライオン
生息地
アフリカとインドの一部の草原やまばらな林
体の大きさ
体長1.6〜2.5m、尾長0.8〜1m、体重150〜260kg
えさ
肉食性で、レイヨウ類やシマウマなどを食べます。動物園では、馬肉、鶏頭、鳥ガラなどをあたえています。
特徴
子どものころには体に暗褐色の斑点がありますが、10カ月ほどで消えてしまいます。頭から肩にかけてのたてがみはオスだけにあり、1才半くらいで生えはじめ、5〜6才で立派になります。ネコ科のほかの動物は群れをつくりませんが、ライオンだけは「プライド」と呼ばれる、1〜3頭のオスと数頭のメス、その子どもたちからなる10〜30頭ほどの群れをつくってくらしています。
インドライオン
生息地
インド
体の大きさ
オス体長1.7m、体高98cm、体重180〜200kg
えさ
野生では、アクシスジカ、サンバー、イノシシ等。動物園では馬肉を中心とし、鶏頭も少量食べます。週に1回はウサギも食べます。 生き餌を食べないとビタミンやミネラルが不足して、生きていけないそうです。
特徴
アフリカライオンとくらべ、体型や容貌は、ほとんど差がありませんが、やや小型です。現在、インドのギルの森(保護区)に約300頭が生息しているだけです。絶滅が心配される危惧種です。

 この項、東京都動物園協会ホームページより
 

5.出典
 トルコからはるばる日本に来て、大阪大学で修士課程を修了した、ハリト ムズラックル氏からメールをいただきました。彼は修士論文に落語から題材をとって、「落語からRakugoへ」を書き上げました。以下は彼の好意により修士論文の抜粋から引用しています。

 彼が調べたところ「動物園」という噺は本来は海外の噺であることが解ったのです。彼の論文は端的に言えば、桂枝雀の英語落語を通して、英語落語の構造と実像に触れながら、落語が世界の人の間で普及することの可能性についての考察と、落語を外国語で演じる過程における難しさと楽しさについての論述です。

海外公演の場合、この噺は外国人の客には馴染みやすかったと考えられる。実はこの噺は西欧の小話(ジョーク)であるとされ、それは噺に日本のローカル・カラーと言える要素が少ないことからも分かる。国や作者について明確なデータはないが、この噺は、明治時代に西欧人によって提供された多数ある西欧人情噺や外国小説の中の一つであると考えられる。二代目桂文之助はこの「動物園」を日本語にするときに、この噺が将来、日本語から英語に翻訳され、海外でも演じられるようになり、国内では英会話の教材として使用されるようになるとは想像もつかなかっただろう。

現在でも欧米で語られているこのジョークは英語で「Zoo Performer」「Zoo Job」「The mime and the Lion」「The mime’s new job」などと称され、登場人物がトラではなく、ゴリラであるという相違を除けば「White Lion」と同様な内容であると言える。参考までにこのジョークを以下に記しておこう。 

Zoo Performer

One day an out of work mime is visiting the zoo and attempts to earn some money as a street performer. However, as soon as he starts to draw a crowd, the zookeeper grabs him and drags him into his office. The zookeeper explains to the mime that the zoo's most popular attraction, a gorilla, has died suddenly. The keeper fears that attendance at the zoo will fall off. He offers the mime a job to dress up as the gorilla until they can get another one. The mime accepts.

 The next morning, before the crowd arrives, the mime puts on the gorilla suit and enters the cage. He discovers that it's a great job. He can sleep all he wants, play and make fun of people and he draws bigger crowds than he ever did as a mime. However, eventually the crowds tire of him and he gets bored just swinging on tires. He begins to notice that the people are paying more attention to the lion in the cage next to his. Not wanting to lose the attention of his audience, he climbs to the top of his cage, crawls across a partition, and dangles from the top to the lion's cage. Of course, this makes the lion furious, but the crowd loves it.

At the end of the day the zookeeper comes and gives the mime a raise for being such a good attraction as a gorilla. Well, this goes on for some time. The mime keeps taunting the lion, the crowds grow larger, and his salary keeps going up. Then one terrible day when he is dangling over the furious lion, he slips and falls. The mime is terrified. The lion gathers itself and prepares to pounce. The mime is so scared that he begins to run round and round the cage with the lion close behind.

Finally, the mime starts screaming and yelling, "Help, Help me!", but the lion is quick and pounces. The mime soon finds himself flat on his back looking up at the angry lion and the lion says, "Shut up you idiot! Do you want to get us both fired?

ハリトさんありがとうございました。彼のブログ http://warattei.exblog.jp/    
                                              この項 07年3月追記

 


 

  舞台の動物園を歩く

 

 多摩動物公園に行きました。東京の西部丘陵地を利用して、自然の情感を作り出す工夫がされています。京王電車終点「多摩動物公園」(新宿から4〜50分)で下車、子供を連れてきて以来の再訪で、なにもかも初めて見る感じです。
 アムールトラの飼育舎は園の最西端にありますので、坂道を上りながら行かなければなりません。運が良かったのでしょう、広い動物公園内を巡回する無料バスが発車間際で、「乗りなさい」の一言で最後の一席をゲットして発車です。トラの展示場は、手前に空堀の有るブッシュを配した舞台になっています。そこに雌一頭が悠然と左右に歩き回っています。間もなく上部の鉄門からベビーのトラが母親の元に登場です。見学者達はその可愛らしさに 、その前から離れません。母親も子供の動きを見ながら、左右に歩き回っています。
 裏に回るとオリの中に父親が歩き回っていますが、その内、奥の棚の上で、大きな欠伸とともに昼寝を始めてしまいました。雌のトラの大きさに驚いていましたが、やはり雄はそれよりも一回り大きい体躯をしています。

 ライオンは東西に長い動物公園の一番東端にいます。鳥を見たり、キリンやシマウマを見ながら、丘陵地を歩いていきます。動物公園ですから、秋の深まった樹下でお弁当を広げたり、遠足で来ている子供達が走り回っています。
 この動物園で一番広い空間を占領し、その中にライオンはのんびりと点在しています。その広い場所にライオンバスが走り眼前にライオンを見る事が出来ます。ライオンも馴れたもので、バスが来ても完全に無視して寝そべっていますので、迫力はあまりありません。バスが来るたび、バスに飛びついたりしていたら、ライオンも疲れてしまうのでしょうね。

 上野動物園に日を変えて行きました。JR上野駅、公園口を出ると、そこは上野公園。その奥の突き当たりに動物園はあります。ここは江戸時代までは上野寛永寺があった境内ですから、動物園内に墓石や五重塔が有ります。何年か前はライオンが居ない動物園として有名でしたが、今はライオンも居眠りパンダもいます。
 インドライオン舎とスマトラトラ舎は隣同士ですから、もしかして両者は同じ庭で唸りあっているかも知れません。
 ここのトラはエサが良いのでしょうか、いつも食後の一眠りです。多摩と違ってガラス張りの窓があって、その前で悠々と昼寝をむさぼっています。
 ライオンも窓から覗くと同じように雌達は寝そべっています。ただ、雄ライオンだけは窓の一ヶ所で子供達を相手に左右に歩き回っています。子供達はライオンの顔が来ると興奮して歓声をあげたり、泣き出したり、目の前のライオンに一喜一憂しています。

 どちらにしても、トラとライオンは同じゲージの中には居ませんし、ホントによく見ましたが、どのトラにもライオンにもチャックは見つかりませんでした。

 

地図

    多摩動物公園

    上野動物園

地図をクリックすると大きな地図になります。 動物園配布の園内地図より

写真

それぞれの写真をクリックすると大きなカラー写真になります。

多摩動物公園(東京都日野市程久保7)
京王線多摩動物公園駅で下車、目の前。

「ライオン・バス」(多摩動物公園飼育
広い放牧場で、放し飼いになっている姿を、ライオンバスがその脇まで来て、お客さんに見せています。ライオンは我関せづで、バスを無視しています。

「ライオン」(多摩動物公園飼育)
仲良しライオン。二頭のライオンは離れず、目を見つめ合っています。

「アムールトラ雄」( 多摩動物公園飼育)
オリの中で我慢です。午前と午後で、雄雌交代で、広い前庭に出られます。

「アムールトラ雌」( 多摩動物公園飼育)
前庭のブッシュで悠然と遊ぶ雌トラ。その横で、今年生まれた子供が遊んでいます。

上野動物園(台東区上野公園内)
JR,京成電鉄・上野駅下車公園内。公営動物園では明治15年(1882)開園の日本で1番古い動物園です。

「インドライオン」(上野動物園飼育)
家族のライオン。
多摩動物園のライオンより一回り大きく感じるのは近くで見ているせいでしょうか、毛並みも白っぽいです。

「インドライオン」(上野動物園飼育)
雄のライオン、鑑賞窓の子供達を震え上がらせています。隣で雌が昼寝です。

「インドライオン」(上野動物園飼育)
雌のライオン。このライオンは妊娠しているのでしょうか、お腹が大きくなっています。

スマトラトラ」(上野動物園飼育)
大胆にも観賞用のガラス窓の下で寝転がっています。
多摩動物公園のアムールトラより一回り大きく、身近で見学出来るので迫力もあります。

スマトラトラ」(上野動物園飼育)
やっと歩き出した、その直後日向でごろりと横になってしまいました。これって、昼寝の位置を移動しただけ?

                                                       2006年11月記

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