落語
「四段目」(蔵丁稚)より

 江戸っ子は芝居見物が大変好きで歌舞伎が一番でした。この噺に登場する定吉も、ご多分にもれず芝居好きで、店の仕事をさぼってまで、芝居小屋に足を運ぶ一人でした。
 当時、一番人気だったのは『仮名手本忠臣蔵』で、中でも、塩治判官の切腹場面である四段目は、芝居通の見るものとして大変好まれていました。
 この幕は、判官がいよいよ切腹をすることになり、最後に家老の大星由良之助を待ちわびるものの、ついに由良之助は現れず、刀を腹に突き立てる。そこへ遅れてきた由良之助が現れ、「御前っ!」「由良之助か〜、待ちかねた」というところで幕がおります。

 さて、仕事をさぼって芝居見物に出かけていたことがばれた定吉は、蔵の中に閉じこめられます。「昼も食べていないのでお腹が空いているので、それからにしてくださ〜い。」と、お願いしたが駄目であった。蔵の中は真っ暗で心細く、おまけにお腹がすいてきます。空腹を紛らわそうと、定吉は、今見てきたばかりの四段目を思い浮かべながら順々に情景を思い出しながら一人芝居をしています。

 あまりの空腹に「旦那〜、お腹がすいてんですよ〜、助けてくださ〜い!」、だれも返事はない。
「そうだ、芝居の事を考えていたら空腹も忘れていられる」と、蔵の中の道具を持ち出して、本格的に演じ始めた。肩衣、三宝、刀、懐紙の代わりに手ぬぐいで、所作を夢中でまね始めた。

 そこへ女中のお清どんが、物干しから覗くと、暗がりの中で定吉が腹を出し、キラキラするものを腹に突き立てようとしているから、びっくり仰天。

「旦那様、定どんが蔵の中で腹を切ってます!」
「なに! しまったすっかり忘れていた。さっきから腹がへった、腹がへったと言っていたけれど、それを苦にして・・・。おい、なにか食べ物を。あぁ、お膳でも何でもいい」。
と、旦那自らおひつを抱えて、蔵に走り、扉を開けて、

「ご膳(御前)」
「くっ、蔵の内でか(由良之助か)」
「ははっ」
「うむ、待ちかねた」。

古今亭志ん朝の「四段目」より
 

詳細は「四段目」をご覧下さい。

 

 

四段目、クライマックスの部分を・・・。

 切腹する前に、塩谷判官は無念の思いを由良之助に伝えたいと思うのですが、由良之助がなかなか来ない。
いつ切腹してもいいようにと用意を整えた塩谷判官、御側衆の力弥(由良之助の息子)に声をかけます。
      舞台中央に判官、その下手に力弥、
   判官:「力弥、力弥」
   力弥:「ハッ」
   判官:「由良之助は」
       力弥、花道をうかがい見て(なんで、親父は来ないのだろうとの思いで)
   力弥:「いまだ参上つかまつりませぬ」
       判官、裃を外し切腹の支度を黙々とする
       (判官、心残りの思い入れあって)       
   判官:「力弥、力弥。由良之助は・・」   
   力弥:「ハッ」
       花道のつけ際まで行き、向こうをうかがい見て
   力弥:「いまだ参上」と言いつつ元の座へ戻り「つかまつりませぬ」と平伏する
       (判官、無念なる思い入れあって)
   判官:「存生に対面せで、残念なと伝えよ」
       検使の方に向かい
   判官:「お見届け下され」
       刀を逆手に持ち直し、刀を腹へ突き立てた瞬間、
               バタバタとつけ打ちがあって、由良之助が揚げ幕から現れ駆けつける。
       由良之助、花道の七三に平伏して
   由良之助:「大星由良之助、ただいま到着」
     石堂:「聞き及ぶ国家老大星由良之助とはその方か。苦しうない、近う、近う」と云われた由良之助、
   由良之助:「ハッ、ハッー」と見るとご主君、すでにお腹を召している
       花道から主君のおそばまでツツッと近寄り平伏
   判官:「おぉ、由良之助か」
   由良之助:「ハッ」
   判官:「待ちかねたぁ〜」

 円生の語り口を聞いていても、舞台を彷彿とさせます。
 

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