落語「本所七不思議」の舞台を歩く
この後、本所割り下水が舞台の「浅井の化け物娘」の本題に入っていきますが、ここでは割愛。今回はマクラで演っていた噺が主題です。 1.本所の七不思議
Ver2.本所一帯は堀割りが多く、 格好の釣り場であった。
ある日ふたりで釣りに出かけると、 どういうわけか その日はよく釣れる。夢中になりすぎて気がつくと、日も暮れかかりあたりは闇に包まれはじめていた。
さて、暗くならないうちに帰ろうとすると、 水の中から「おいてけ〜... おいてけ〜...」という声が聞こえる。
ひとりは驚いて、釣った魚を全部投げ捨てて逃げ帰ってきた。
ところが、もう一人は釣った魚をもって逃げようと したので、あっという間に掘の中に引きずり込まれてしまったということだ。 Ver3.・・・逃げ帰ってきて、自宅のカメに魚を入れて置いたが翌朝見ると1匹もいなかった。回りには鱗だけが残っていた。 Ver4.本所のある堀の近くの旗本屋敷で、往来の者を屋敷に引きずり込みいかさま博打をして、身ぐるみはがして置いていかせる。 右図;本所七不思議之内「おいてけ堀」昇旭斎国輝画(=三代目歌川 国輝。すみだ緑図書館蔵。以下浮世絵7枚全て同じ。2011.7.追加)
Ver2.本所の人が夜半にめざめて耳をすますと、遠くあるいは近くから、おはやしの音が聞こえてくるが、どこから聞こえてくるのかわからないという。(本所一帯) Ver3.・・・どこから聞こえてくるのか確かめようと外に出て、お囃子の音を追いかけていくと、音はどんどん遠くなっていき、気がつくと、とんでもない時間になっていて、とんでもない所にまで来てしまっている。
右図;本所七不思議之内「たぬき囃子」昇旭斎国輝画 三 「送り提灯」 Ver2.夜道を歩いて帰る途中、道に迷ってしまった。 途方にくれていると、何やら遠くの方でちらちらと灯りがついたり消えたりするのが見える。 家があるのかとおもって近づいていくと、 ふッと消えてしまう。不思議におもっているとまた灯りが見える。 近づこうとするとまたふっと消えてしまう。 右図;本所七不思議之内「送り提灯」昇旭斎国輝画
四 「落葉無き椎の木」 後日談;このことがすっかり有名になり、松浦家は「椎の木屋敷」と呼ばれるようにな
った。椎の木は常緑樹で、もともと落ち葉は少ないが、当家でも気味悪がってこの屋敷をあまり使わなかったと言います。
しかし、この椎の木は銘木で、吉原通いの舟人達にはその風景が良かったので川柳にも詠まれた。「椎の木は殿様よりも名が高し」。
Ver2.今の両国駅の近くに、津軽家という家があった。
昔から火事を知らせるために大名家の火の見櫓では版木を打つのだが、太鼓を打つことができるのは津軽家だけと決まっていた。
なぜ津軽家だけがその太鼓を打つことを許されていたのか、その理由は誰も知らない。 また、その太鼓は時を告げるための太鼓でもあったともいわれている。 「本所の勝景」 安政3年
一幽斎重宣(二代目広重)画
本所津軽(弘前)藩邸上屋敷、表門前の正月風景。本所七不思議の一つ「津軽の太鼓」の鐘の櫓が見える。 10.04追加 六 「片葉の葦(あし)」
Ver2.亀沢町に住んでいたお駒という美しい娘がならず者の留蔵に目をつけられた。ある日母親の用事で出かけたお駒が、葦の生いしげる堀にそった道を帰る途中、留蔵がせまって逃げるお駒の後ろからあいくちで刺し殺し、堀に沈めた。そんなことがあってから、この堀に生える葦はどうしたことか,片っ方より葉のない片葉の葦ばかりとなった。 留蔵はやがて狂い死していまった。 Ver3.その昔、留蔵というならず者が、お駒という娘に惚れていた。しかし、お駒は彼になびかず、怒った留蔵は、お駒を殺し、片手片足を切り落として、堀に投げ込んだ。それ以来、ここには片葉の葦が生えるようになったとか。 右図;本所七不思議之内「片葉のアシ」昇旭斎国輝画
七 「消えずの行灯」または「燈無蕎麦」(あかりなしそば) Ver2.冬の寒い深夜、震えながら歩いていると向こうに蕎麦屋の屋台の灯が見える。近づいてみると無人で、待ってみても誰も現われない。行灯の火を消すと凶事が起こるとも言われている。 Ver3.「夜、二八そばの屋台が出ているのだが、いつ行っても誰もいない。しかし、行灯の明かりだけはついていて、いつまでたっても消える気配はなく、いつ油をさしているのかもわからない。」 Ver4.夜道を家に帰る途中、腹がへってきた。 ふと気がつくと、灯りもつけずにいる屋台の二八そば屋がある。 不思議に思って近づいてみると、 お湯が沸いて器が並べてあるのにそば屋の主人がいない。 気をきかせてあんどんに灯をともして主人を呼ぼうとすると、 風もないのにスーッと火が消えてしまう。 再び火をつけようとすると、また スーッと消えてしまう。 気味が悪くなって急いで家に帰ってきたが、 その後は必ず凶事が起こったという。
右図;本所七不思議之内「灯り無しの蕎麦屋」昇旭斎国輝画 八 「送り拍子木」 Ver2.夜、夜回りの拍子木の音があちらこちらから聞こえてくる。 右図;本所七不思議之内「送り拍子木」昇旭斎国輝画
九 「足洗い屋敷」(あしあらいやしき)
Ver2.本所三笠町の味野岌之助(あじのきゅうのすけ)という幕府旗本の屋敷では毎晩不思議なことが起こった。なまぐさい風が吹きぬけたかと思うと、激しく家鳴りがする。しばらくして、天井から「メリメリ」「バリバリ」と大きな音が聞こえる。その音と同時に、血にまみれた、大きな毛むくじゃらな足がニョッキリと現れ、吠えるような声で「足を洗え!」とどなる。血のついた足をきれいに洗ってやると足はおとなしく天井へ消えていく。毎夜現れる足を洗っていたので、この屋敷をいつの間にか「足洗い屋敷」と呼ぶようになったそう
な。 右図;本所七不思議之内「足洗い屋敷」昇旭斎国輝画 後日談;味野家がたまりかねて、友人の旗本設楽氏と屋敷を交換したら、その後はこの足が出なくなったと言われる。 この”足洗い”は江戸の各地に見られ、「洗足(せんぞく)」という地名で残った所もある。
本所七不思議の内容は、すみだ郷土文化資料館編纂、「隅田川の伝説と歴史」(東京堂出版)を下敷きにしています。
2.置いてけ堀の位置 江東区史跡登録1986年 おいてけ堀跡(亀戸1-12)。江東区の史跡に堂々と登録されています。(上記写真;「おいてけ堀跡」碑、下写真;そこの説明板)
「置いてきぼりを食う」、または「置いてけぼりにされる」というときの「置いてけぼり」の語源になったといわれています。 舞台の「置いてけ掘」を見て歩く
この話は実を言うと、私の住まいの近くの話です。改めて書き出してみると、七不思議どころか九不思議もある、不思議な話です。それぞれの話が漠然とした舞台であったり、ピンポイントで分かっていたりで、様々ですが「置いてけ堀」だけは未だ場所が確定されていません。本当は「亀戸」だと分かっていても(?)言い出しにくいのかも知れません。と、私は思っています。
それぞれの写真をクリックすると大きなカラー写真になります。 2002年5月記
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