落語「薮椿の陰で」の舞台を歩く
   

 

 三遊亭円丈の噺、「薮椿の陰で」(やぶつばきのかげで)によると
 

 秋の渡り鳥モズが飛来してきて鳴き叫ぶ10月頃です。足立区の建て売り住宅に家族の間にすきま風が吹くような一家がありました。北千住に行って買い物でもしようと言う奥様。玄関を開けようとしたが開かない。それもその筈、扉の前にトトロならぬムーミンらしきモノが居る。・・・モップ状の犬か?70kg以上の超大型犬が寝そべっていた。亭主の肩に両足を載せたら犬の頭が亭主より上になってしまった。関わっていると、なついてしまうから、玄関を開けて部屋に戻ると、犬も着いて入ってきた。座敷犬らしく平気で部屋中を汚い足で歩き回り、ドアーに体当たりして開けようとしている。
 大変だ。と言う事で保健所に電話したが、「今日から3日間休みなので、その後お電話下さい」。その頃には部屋が壊されているよ。あまりにうるさいので、子供が2階から下りてきて「お母さん、テレビショッピングで羊買ったの」。犬は体を震わせて身体の汚れを撒き散らし、母親は風呂に連れて行きシャンプー、残る家族は大掃除。
 落ち着いた犬は、体当たりを繰り返して家中の扉を開け放ち、犬のバリアフリーが完成した。
 2〜3日経つと、バカな犬ほど可愛いもので、保健所には電話出来ないし、飼う事もままならない。まるで犬の居候。家族の一員になってしまった。
 「居候犬ドックフードを5杯食い」
 「居候犬散歩で主人を引き倒し」

 またたく間に3ヶ月が流れ、夫婦して買い物から帰ってみると、冷蔵庫は開け放たれ貰い物のフォアグラが袋を残し無くなっていた。また、匂いの元を見ると13万円の大事なブランドバックに排泄物がてんこ盛り、その中に主人の携帯電話が顔を出していた。怒った二人が、犬に「出ていけ!」。
小さくなっていた犬は、悲しそうな顔で窓からスルリと消えた。

 1週間後の夕暮れ、それ以来家族の帰りが早くなった。息子が調べたら『コモンドール』とドイツの大型犬の交配種らしいという。親父はチョッとした物音でもカーテン開けて外を覗いているし、母さんだって玄関先にドックフードと水を切らさない。
 「僕、反省してるのは、あの日散歩に連れて行くはずが、時間が無くなり『散歩させた』とウソを付いたんだ。無人の家になってしまったが、犬なりに考えてしつけ通り器の中にウンチをしたんだ。それがバックだったんだ」、父親も「お父さんだって、電話が長くなって、餌を与えないで出掛けてしまった。だから腹減っていたんだ」。犬が悪いのではなく家族が悪かったと、ポスターを作って探した。

 そんな簡単には分からなかった。一月も経った頃電話が入り10kmも離れた公園に見に行った。樹齢千年という大銀杏の下の薮椿にもたれるようにうずくまっていた。餌も食べていなかったようで弱っていた。3人を見て喜んだかのように一声鳴いて倒れ込んで動かなくなった。
 死んでしまったと、泣きながら新しく買った首輪とリードを付けて、ドックフードを差し出すと、まだ生きていた。大銀杏からは黄金色の至福の枯れ葉が、犬と3人の家族の上に降り注ぐのでした。

 



 黄金色に紅葉した皇居前の大銀杏。イメージで噺の公園とは関係ありません。

 三遊亭円丈の自作の噺ですが、本人も言っているように珍しく、しっとりとしたイイ噺に仕上がっています。舞台は自宅周辺の足立区六町です。


1.足立区
(あだちく)
 東京23区の一つ。東京の北端にあって、これから延びる区の一つです。一番の繁華街は北千住。

六町(ろくちょう);足立区の中央部にあり、六町駅は、最近出来たつくばエクスプレスの駅で、足立区六町四丁目1番にある。円丈の自宅はここの町にあり、弟子達は陸の孤島だったと言っています。

一ツ家公園;六町の南、一ツ家四丁目に有って、円丈の自宅はこの近所。犬の散歩もここで出会えるかも。
落語「一ツ家公園早朝ラブストーリー」(三遊亭円丈)の舞台。

一ツ家、二ツ家、四;足立区には一ツ家のほかにも二ツ家や四ツ家といった地名がかつて存在していたほか、五反野駅近くを流れていた堀は三ツ家堀と呼ばれており、これらの名はこの地を開発した入植者の家の軒数を表していると言われている。「一ツ家」もかつて開拓された当初は湿地帯の中にただ一軒だけの家があるだけだったと考えられている。他の二ツ家や四ツ家の地名は、現在ではバス停や公共施設の建物名に残されているだけですが、一ツ家の名は住居表示として現在一〜四丁目として残されている。
 区画整理前はアメーバーの侵略状態に入り組んでいて、区画整理によって現在の整理された状態になった。その時の旦那衆が土地を出し合って一ツ家公園が出来上がった。

 

2.コモンドール犬
 噺の中で言われるモップ状の犬。コモンドールは、筋肉隆々とした大型犬で、体高より体長がわずかに長く、骨格も筋肉もしっかりした頑丈な体格。軽やかな足取りで、ゆったりと大きな歩幅で歩くのが特徴。 被毛は、密にはえた羊毛のような下毛と、ウェーブがかかっていたり巻き毛になったりしている粗めの上毛の二層構造になっています。上毛のなかに隠れた形ではえている下毛は、フェルトのように強く、縄のようにしっかりしています。このような被毛のおかげで、コモンドールはどんな天候や害獣からも身を守ることができ、万が一敵に咬みつかれても傷を負うことはめったにありません。さらに、羊の群れのなかにまぎれると区別がつかないため、たやすく身を隠すこともできます。
 忠実、仕事熱心、遊び好き、用心深く主人に対し献身的。 アメリカでは家畜の群れをコヨーテから守る現役の牧畜犬。
性格は、マイペースで独立心旺盛。しっかりとしたしつけやトレーニングは不可欠。支配できるチャンスがあると、すぐに威圧的な態度に出る犬種でもあるので注意が必要。

  

ロッキー&ミッキー;実際に円丈の飼っている愛犬2匹の名。
 
 お孫さんが引くロッキー。円丈のホームページより

 

3.言葉
■百舌・鵙(モズ); スズメ目モズ科の鳥。ヒヨドリ大で尾が長い。雄は頭部は栗色で目を通る黒斑があり、背・腰は灰褐色、下面は中央白色、他は赤褐色。雌の下面には横斑が多い。日本・中国北部で繁殖し、北方のものは冬は南へ渡る。昆虫・蛙などを捕食。他種の鳥や動物の鳴き声をよくまねる。秋から冬に雌雄別々になわばりを張り、その宣言として、高い梢などで鋭い声で鳴き、それを「モズの高鳴き」という。「モズの速贄(ハヤニエ)」を作るのは有名。広辞苑。右図も。


 円丈の自宅そばの電線に止まるモズの群。円丈のホームページより

トトロ; 映画「となりのトトロ」。 監督 宮崎駿 設定上は昭和30年代前半、日本を舞台にしたファンタジー。田舎へ引っ越してきた草壁一家のサツキ、メイ姉妹と、“もののけ”とよばれる不思議な生き物「トトロ」との交流を描く。

右図;「トトロ」 アニメDVD「となりのトトロ」カバーより

ムーミン

薮椿(やぶつばき);山野に自生する椿。やまつばき。




  舞台の足立区六町を歩く


 つくばエクスプレスは2005年(平成17年)8月開業の真新しい鉄道です。秋葉原東口から発車だと言われてもどこにも鉄道が見えず、都内は地下鉄と同じ地下を走っていますから、ここ始発駅でも地下深く降りていかないとホームにたどり着きません。普通電車に乗るためには、1時間6本の列車を待たなければなりません。秋葉原を発車すると快適に走りますので、終点筑波まで行きたくなりますが、心の声を振り切って六町駅で降ります。

 あらら、なんて郊外に来てしまったのでしょう。と思うほど、閑静なところなんでしょう。ハッキリ言えば発展途上の新駅をかかえた町です。
 町を西に向かって歩き始めますが、こんな狭い道にバスが交互通行していますし、郊外型の住宅が建ち始めていますし、私の子供の頃有った空き地が沢山あるのがイイ。円丈の住まいは何処か分かりませんので、町中を横断して、六町二丁目交差点を確認して、南に歩を進めると、”一ツ家第一公園”に行き当たります。夏休みの子供達が楽しそうに遊んでいますし、子供を連れた若いお母さん達が公園で楽しんでいます。第一公園と地図ではうたっていますが、第二公園は何処にあるのでしょうか。未だに分かりません。
 町中にも、公園内にも犬には一回も出合いませんでした。散歩の時間帯ではなかったのでしょうか。

 ここから、南に東武鉄道、五反野駅に向かって歩いていきます。一ツ家公園の南側は東電の総合制御所(変電所)ですが「入ったら感電死するだろうな」、という変電設備が並んでいます。その南が環状7号線の大通りで、俗に環七といいます。渡って斜めに開かれた”花畑街道”と言う、名前がいい道を五反野駅に向かって歩きます。青井町と言うのに、バス停が二ツ家というバス停です。これは何でしょ、もしかすると、一ツ家の次は二ツ家。だったら、次は三ツ家で有ろうと思うのはかってですが、出てきたお米やさんの屋号が”四ツ家米店”次に現れた金物屋さんも四ツ家。あれれ、どこかで三ツ家を見過ごしたか。見落としたか。サイダーのアワと消えたのでしょうか、と思ったら四家の交差点。その角にあった交番で聞きました「三ツ家はどこ?」、地図を出して細かく調べてくれましたが、現在の公式住宅地図では不明。お巡りさんご苦労様でした。
 五反野駅に向かう商店街”きたろーど”が賑わっていますが、この通りに有った三ツ家堀が暗渠になって賑やかな商店がに発展。ここに3番目の三ツ家が有ったのです。これで一ツ家、二ツ家、三ツ家、四ツ家の疑問が解けました。では五ツ家は有るのか?

 五反野駅から二つ目の北千住に出ます。ここは「足立区一の繁華街」という円丈に騙されて寄ります。たしかに人の往来は有りますが、町の売上高は分かりません。足立区一は間違っていないでしょう。ここは駅ビル”ルミネ”、隣のビルは”0101”(マルイ)です。若者を引きつける要素は整っています。
 また、その先のJRに並行して走る街道は旧日光街道で、ここに旧千住宿が有ったのです。その賑わいはスゴいもので、宿場があった時からこの状態なのでしょうね。四宿の内でも最たる人出を確保している新宿と北千住です。 


地図

  地図をクリックすると大きな地図になります。 

写真

それぞれの写真をクリックすると大きな写真になります。

六町駅前(ろくちょう。足立区六町四丁目1番)
 つくばエクスプレス駅六町駅は、始発秋葉原駅から六つ目の駅ですから六町ではありません(笑)。陸の孤島と言われた所ですから、今、開発の真っ最中。つくばエクスプレスは筑波山の麓まで20駅で構成されていますが、普通電車しか止まらない4駅の中に含まれる貴重な駅です。

六町二丁目
 六町は四丁目まである街です。その西側にある交差点に六町二丁目の表示が出ています。お腹をすかせたコモンドールはどこをほっつき歩いていたのでしょう。

一つ家第一公園(足立区一ツ家四丁目)
 六町二丁目の南側、一ツ家四丁目に、一ツ家公園があります。数字の付く町名が多く出てくる足立区です。
 町内の有志が土地を出し合って、この公園を作ったと、石碑に刻まれています。素晴らしい旦那衆です。

四家交差点
 環七通りを南に横切って、東武・五反野(ごたんの)駅に向かいます。一ツ家の次にバス停で二ツ家が現れてきました。町名にない表示です。では、次は三ツ家? いえいえ、この四ツ家・・・五差路の四家交差点です。ここを入って行くと”きたろーど商店街”で、五反野駅に出ます。  

三ツ家堀跡商店街(きたろーど商店街)
 突き当たりの高架が東武線のガードで、左側に五反野駅があります。ここの道に三ツ家堀が流れていて、暗渠になって現在は商店街です。バス停に三ツ家があります。並び順がチョット違ってしまいました。 

北千住駅前 (足立区一番の繁華街)
 寄席でも円丈は何かあるといつも言うのが「足立区一番の繁華街」。先程の五反野駅から二つ目、その北千住に立っています。この駅は東武伊勢崎線、JR常磐線、地下鉄日比谷線、地下鉄千代田線、そして、つくばエクスプレスが乗り入れています。北の渋谷とヨイショしておきましょう。

旧日光街道千住宿跡(北千住駅西側) 
 江戸時代から栄えた日光街道の江戸から最初の宿。四宿の一つで、この宿場跡が商店街として元気いっぱいです。四宿で元気なとこはここと、新宿だけでしょう。宿として栄えたのは岡場所があったのと、やっちゃばが有って、近郊の青果が全てここに集積されたターミナルだったからです。

                                                                  2011年9月記

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